最近読んだ本
佐伯胖
「新・コンピュータと教育」
岩波書店
,1997
道具とはどういうもので、その利用が齎すものは何かという とこ
ろから、コ ンピュータの利用、特に教育での利用について考察が行われ
ている。無批判な コンピュータの導入の危険性が、教育そ のものを破壊
しかねないことを考え させられる。教育に関係しない人も、コンピュー
タとつき合い方を考える上で 興味を持って読める 本です。
田中克彦
「名前と人間」
岩波書店 ,1996
言語学から見た固有名詞の問題を扱った本。 言語学と固有名詞の
距離の取り 方が面白い。片仮名言葉の氾濫する最近の状況についても考
えさせてくれる。
小河原誠
「ポパー」
講談社、1997
K. R. Popperの哲学の解説書。科学と非科学を区別する 基準とし
ての、「可 謬性」の概念が掴みやすい。科学とは、暫定的ドグマとその
批判過程とする考 えは、現場の考えと近いと思うが、 一般には理解され
にくい考えだと思う。 残念ながら科学の具体的知識が記述されている箇
所に不適切な箇所がある。
Francis Crick
The Astonishing Hypothesis
Simon & Schuster, 1994
DNA の螺旋構造を発見し、J. D. Watsonとともにノーベル賞を授
賞したCrick による「意識」に関する本。と言っても、別に遺伝や 遺伝
物質、あるいは遺 伝と意識を関連つける本ではなく、脳と意識に関する
解説書。特に、視覚の意 識に着目し、脳による視覚情報の 処理を具体的
に脳の部位と対応付けながら 解説している。
Richard Dawkins
The Blind Watchmaker (with new introduction)
Norton,1996
[中嶋康裕他訳「ブラインド・ウォッチメイカー」(早川書房)]
The Selfish Geneの著者による進化論の 解説書。 自然淘
汰がどのように複雑な生物をつくり出したがを、Dawinism以外の解釈を
批判しながら解説している。題名は、18世紀 の神学者Paleyが複雑な構造
をもっ た時計に時計職人(Watchmaker) が必要なように、時計よりも複雑
な生物の創 造には創造者(神)の 意図が必要だという創造論への反論とし
て、自然淘汰と いう意図の ない時計職人(Blind Watchmaker)が複雑な生
物をつくり出したと い うもの。
米沢富美子
「複雑さを科学する」
(岩 波書店、1995)
「複雑系の科学」からの視点での「物理科学入門」といった感じの
本です。 何を問題にしているのかが良く書かれています。文章は、軽快
で、一気に読ま せてくれます。
M. H. Briscoe
Preparing Scientific Illustrations
Springer, 1996
学会発表や論文のために、図や表を用意したり、 スライドやポス
ターを作る ためのガイドの本です。見やすい、論点の明確な図などを作
るという、まぁ、 当たり前のことが書いてあり ます。しかし、当たり前
のことを何時も実行出 来ているかというと、少なくとも、私はそうでも
ないので、時々出して眺める と役に立つ でしょう。著者は、医学用の図
を作る会社を経営しているとのこ とで、例題は医学生物系のものが使わ
れています。
谷口克
「免疫の不思議」
(岩波書店、 1995
最近、「複雑系」をキーワードに生命現象や社会現象に、 従来関
係の薄かっ た分野、例えば、物理や計算機科学からのアプローチが増え
ています。しかし、 実際にそういった問題にアプローチし ようとしても、
言葉や思考方法の相違 からなかなか近寄れないのが実際です。免疫も進
化や適応を示す複雑な現象の 一つです。本書は、 免疫系の大枠を分野の
異なる人にも分かりやすく示して くれます。
Michael Crichton
The Lost World
Alfred A. Knopf, 1995
Jurassic Park の続編にあたる作品です。Jurassic
Parkの恐竜 たちは絶滅したはずでしたが、研究所に残っていたとい
う話しです。さすが、 ベストセラー作家だけあっ て、スピード感溢れる、
映画的魅力に富んだ作品 です。最初に、Santa Fe Institute という実在す
る複雑系の科学の研究所での、恐竜絶 滅に関するセミナーから 始まりま
す。随所に、セミナーなどでも議論があり、「良く、調べているなぁ」
と感心します。
Paul Dubois
Software Portability with imake
O'Reilly & Associates, Sebastopol, 1993
複数のソースファイルからなるソフトの構築を支援する ツールが
makeですが、makeは条件分岐が出来ないので、シス
テム環 境に合わせて書き換えないといけません。 imake はcppを使って
条件判断をし ながらmakeを作るツールです。
佐藤文隆
「科学と幸福」
岩波書店
科学とは何かではなく、社会の中での科学とか科学者の位置につい
て書かれた ものです。とくに、天才たちの作る科学ではなく、現在の普
通の人たちが大学 院での教育を受けることによって職業としての研究に
入っていって作る科学、 への視点が新鮮です。
L. Aronson
HTML Manual of Style
Ziff-Davis Press, Emeryville, 1994
HTMLの書き方の入門書です。例も豊富で、クイックリファレンスも
あります。
Andrew Oram and Steve Talbott
Managing Projects with make
O'Reilly & Associates, Sebastopol, 1986
makeは複数のソースファイルからなるソフトの構築を支援する ツー
ルです。 簡単なmakeスクリプトを書くのは簡単なのですが、ちょっと複
雑なものへは壁 があります。この本を読めば、その壁をあっさり突破出
来るでしょう。
Gary Blake and Robert W. Bly
The Elements of Technical Writing
MacMillan, New York, 1993
理工系
の作文技術に関する本 は少なく、日本では、木下是雄「理科系の作
文技術」(中公文庫) が有名で すが、英語圏では多数の書籍があるよう
です。これも、そのうちの一つです。 提案書やマニュアルの書き方が出
ているところ などは、日本のこの手の本と の大きな違いです。また電子
メールに関する1節や、作文支援のソフトへの言 及もあり、最新の情報
にも 目配りがあります。TeXに関する記述はありません。
Dale Dougherty
sed & awk
O'Reilly & Associates, Sebastopol, 1990
SedとawkはUNIXで使える基本的ツールです。 基本的使い方から高度な使い方 まで、多くの例と共に解説があり重宝な本です。日本語版もあります。